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掬光庵

わずかな光を掬いとる漆黒の空間  

かつての民家には闇があった。現代の住まいから闇が消え去って久しいが、古来、人は闇に畏れを抱きながらも闇と共に暮らしてきた。現代人は闇の全てを消し去り、光に満たされた明るい住まいを手にしたが、同時に静寂に包まれた落ち着いた空間を失ってしまった。そろそろ静寂を住まいに取り戻してもよい頃ではないか。「掬光庵」は漆黒の闇に包まれた、建主の強い個性が表れた住宅である。禁欲的なまでに外からの光を抑え、仕上げから小物に至るまで全てを黒に統一した闇の中で、抑制されたわずかな光を掬いとり、素材や艶によって異なる表情をつくりだす。闇の中に開けられた小さな窓から見える景色は、強く鮮明な印象を与え、四季の移り変わりを強く意識させる。

建売住宅が建ち並ぶ新興住宅地の南東の一角、南は土手、西は畑に面する旗竿敷地である。竿部分を駐車スペースとし、残った整形地に正方形平面で壁を立ち上げ、その上に方形の屋根をのせ無柱の空間をつくった。1階の四隅にエントランスポーチや庭などを配置して、内外をつなげる扉や窓を設けている。床は1階から螺旋を描くように2階まで上がっていき、それに呼応するように、渦を巻くような屋根架構となっている。螺旋を描く床の頂点を大きなテーブルとして無柱空間の中心に設え、食事はもちろん、映画を観てくつろいだり、夫婦それぞれのデスクトップコンピューターを置いてネットサーフィンを楽しんだり、そこでほぼ全てのことが行われる。テレビモニターに正対して置かれたソファの背後にベッドスペースを設け、その両側に夫婦それぞれの書斎を設けただけの単純なプランで、プライベートエリアとはオーガンジーの布で仕切られただけのワンルーム空間となっている。

漆黒の闇の中に移り変わる四季を掬いとる、二人だけの静寂に包まれた特別な空間となっている。

掲載誌:新建築住宅特集2017年6月号