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十窓の間 漆黒に浮かぶ景色の移ろいを映す窓

東京近郊の住宅地に建つ別荘。北西側は大きな公園に面しているが、南東側は隣家と庭もなく接しているため、大自然に向かって大きな開口といったスタイルの別荘とはならない。以前、類似した敷地で「掬光庵」という住宅を設計した。その住宅は「光の差し込む窓を抑え、素材を変えながらも全て黒で統一した闇の中で、抑制されたわずかな光を掬いとり、四季の移り変わりを強く意識させる」というもので、この別荘においても外部に対して閉鎖的にすることにより、逆説的に無限の小宇宙を感じさせる。 建主はほとんどの時間、中心の部屋で映画を観るという。その部屋は適度な吸音ができる艶のない黒い布で包まれており、床は映り込むほどに艶のある黒となっている。その黒い空間より外周に対して穴を開け、外周であるバッファーゾーン的空間より更に外部に対して多様な開口を設けている。中心の黒い空間の艶のある床は艶のない壁に対して相対的に光を強く感じさせ、季節、時間によってその光の質は変化し、映りこむ空の色、そして木々の緑あるいは紅葉した様を映し出す。 北側の公園に面した寝室、キッチンの窓は大きく開けられ、暗がりの中心からは輝度差も相まって眩しいくらいの光である。そして外部に対して閉鎖的であるものの、北側に張り出したバルコニーの壁が雑多な風景のみを切り取り、筑波山を望む2階の書斎が中心の部屋とは対照的に外部との関係を直接的につくり出している。別荘でありながら、大自然での佇まいとは違う建ち方の別荘となった。

新建築住宅特集2025年6月号

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