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東小金井の家風景を切り取る小さな板の集積

のどかな風景が残る東京郊外・武蔵野に建つ住宅。敷地の東側に広がる畑には、かつて林の体を成していたと感じさせる梅の木々が残っている。その畑の向こう側には雑木林が、そして遠くに電車が走り抜けるといった風景は、都市近郊でありながら豊かでかけがえのないものである。家の中においてこの風景をそのまま取り込むのではなく、場に合わせて風景を切り取り、そのひとつひとつを改めて頭の中で組み合わせることで、この武蔵野の風景を感じられるようにしたいと考えた。風景は小さな板(小さな壁と小さな床)をランダムに組み合わせて生じる隙間により切り取り、目線の高さにより更に多様なものとなる。そして、その風景を切り取る小さな板を内部空間にまで波及させ、様々な場をつくり出すこととした。 敷地は建主が子どもの頃に過ごした実家のあったところで、近所との関係も深い。梅林の面影を残す畑の広がる東側は、近隣住民のみが通る道路に接し、それ以外は住宅に囲われている。敷地内に昔から植えられている柚や梅の木を残すように、また、近隣とのプライバシーを確保しながらも、通りゆく近所の方との会話を促すベンチを設けるなど、建物にごく近い外側の要素から板(小さな壁と小さな床)の配置をスタートさせていった。一方で、ガラス面を外側の壁より下げて設けることで雨から守られた半外部空間をつくり、内外を曖昧にしている。太陽光の入り方や眺望、プライバシーの確保を意識しながら壁や床を配置することで、明るいところと薄暗いところが生まれ、単純なルールにして多様な場が生まれた。 明暗や天井の高さ、部屋の大きさの異なる場の繋がりは多様である。子供部屋、寝室といった行為別にこだわらないという建主の柔軟な考え方があったからこそ、夏は涼しいところ、冬は暖かいところと最も居心地の良いところを探すネコのように、その時々で過ごす場を移りかえていく多様な使い方のできる住宅になったのではと思う。

新建築住宅特集2016年5月号 東京建築賞(東京建築士事務所協会)2019

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